大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)479号 判決

一審原告(四七九号控訴人 四七二号、六一九号被控訴人) 松浦英治

一審原告(四七九号控訴人 四七二号、六一九号被控訴人) 松浦ミヨコ

右両名訴訟代理人弁護士 寺沢勝子

一審被告(四七九号被控訴人 六一九号控訴人) 内田運送株式会社

右代表者代表取締役 大浦武義

右訴訟代理人弁護士 榎本駿一郎

妙立馮

一審被告(四七九号被控訴人 四七二号控訴人) 山田芳夫こと 具本文

一審被告(四七九号被控訴人 四七二号控訴人) 姜点圭

右一審被告具本文、同姜点圭両名訴訟代理人弁護士 倉橋春雄

一審被告(四七九号被控訴人) ゼネラル石油株式会社

右代表者代表取締役 鈴木勲

右訴訟代理人弁護士 山本寅之助

芝康司

亀井左取

森本輝男

藤井勲

主文

1、一審被告内田運送株式会社の控訴に基き、原判決中同被告敗訴部分を取消す。

一審原告らの同被告に対する請求を棄却する。

2、一審原告らの一審被告ゼネラル石油株式会社に対する控訴に基き、

原判決中、同被告に対する部分を左のとおり変更する。

同被告は一審原告英治に金六二〇、〇五〇円、同ミヨコに金一、〇六一、一五〇円を支払え。

一審原告らの同被告に対するその余の請求を棄却する。

3、一審被告具本文、同姜点圭の本件控訴を棄却する。

4、一審原告らの一審被告内田運送株式会社、同具本文、同姜点圭に対する本件控訴を棄却する。

5、訴訟費用は第一、二審を通じ、(イ)一審原告らと一審被告内田運送株式会社との間に生じた分(ただし、後記一審原告らの同被告に対する控訴に要した費用を除く。)は全部一審原告らの負担とし、(ロ)一審原告らと一審被告ゼネラル石油株式会社との間に生じた分はこれを三分し、その一を一審原告らの、その余を同被告の各負担とし、(ハ)一審被告具本文、同姜点圭の一審原告らに対する各控訴費用、一審原告らの一審被告内田運送株式会社、同具本文、同姜点圭に対する各控訴費用はいずれも各控訴人らの負担とする。

6、この判決は2の金員支払命令部分につき仮りに執行することができる。

事実

一審原告ら訴訟代理人は四七九号事件につき「原判決を左のとおり変更する。一審被告らは各自一審原告松浦英治に対し金六八七、三〇〇円、同松浦ミヨコに対し金一、九二九、一五〇円の支払いをせよ。訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、四七二号事件に対し「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人ら(一審被告具本文および同姜点圭)の負担とする。」との判決を、六一九号事件に対し「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人(一審被告内田運送株式会社)の負担とする。)との判決をそれぞれ求めた。

一審被告内田運送株式会社訴訟代理人は六一九号事件につき「原判決中一審被告内田運送株式会社敗訴部分を取消す。一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。」との判決を求め、四七九号事件に対し控訴棄却の判決を求めた。

一審被告具本文、同姜点圭訴訟代理人は四七二号事件につき「原判決中、一審被告具本文、同姜点圭敗訴部分を取消す。一審原告らの請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。」との判決を求め、四七九号事件に対し「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

一審被告ゼネラル石油株式会社訴訟代理人は四七九号事件に対し「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、原判決の事実摘示にかかる一審原告らの請求原因事実第一項の事実(一審被告姜が加害車タンクローリーを運転中、一審原告英治運転、同ミヨコ同乗の被害車軽四輪自動車に接触し横転せしめた交通事故に関する事実関係)は当事者間に争いがない。

二、そこで、右交通事故に関する一審被告らの各帰責事由の存否について検討する。

(一)  一審被告姜の帰責事由

当裁判所は、本件事故は、一審被告姜が加害車を運転中前方不注視、車間距離不適切の過失があったため惹起されたものであるから、同被告は民法七〇九条所定の不法行為上の責任を負うべきものであると考える。

その理由とするところは左のとおり附加訂正するほかは原判決理由説示(原判決一一枚目裏七行目から同一二枚目裏末行まで。但し、一二枚目裏三行目乙第四、五号証とあるを、乙第五、六号証と訂正する。)と同一であるからこれをここに引用する。

1、右に挙示の証拠によって認められる事実として次の事実を附加する。

「一審被告姜がこのような接触事故を起こしたのは、同被告が事故直前に一台の乗用車を左側から追越し、その車の前方に出るさい、自車のバックミラーにより追越した車の動向を確認するのに注意を払うあまり、左前方を走っていた一審原告らの被害車に気付かなかったためであった。」

2、原判決一二枚目裏六行目の「直接の」から同九行目の「ある以上、」までを次のとおり訂正する。

「原因は、専ら一審被告姜が自車を運転するにさいし、追越した他車の動向を確認するため後方に注意を払うあまり、前方の注視を怠り、前方を走行中の被害車に気付かず被害車との車間距離を異常に接近せしめた過失によって発生したものであるから、」

(二)  その余の一審被告らの帰責事由

まず、一審被告ら各自と本件加害車の関係について検討する。

≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認められる。

1、一審被告山田は昭和四二年三月二〇日石油製品および添加剤ブルドールの販売とこれに附帯する業務を目的とする山田石油を設立し自らその代表者となり(実質上、被告山田の個人会社)、和歌山市延時一三九番地(同年六月一〇日以降の本店所在地)にガソリンスタンドを設置し営業していた。山田石油は一審被告ゼネラルといわゆる特約店契約を締結していたもので石油等商品は一切右ゼネラルから仕入れていた。山田石油は当初仕入石油運搬のためタンクローリー一台を保有していたが、その後、時に応じ一審被告ゼネラルの石油を他社へ運搬する仕事も引受けるようになり、そのため山田石油保有のタンクローリーは間もなく三台となった。本件加害車はそのうちの一台であって昭和四三年三月ごろ山田石油が和歌山いすず自動車株式会社から割賦払いにより買受けた七・五屯車であった。

なお、一審被告ゼネラルはかねてから自社と取引をする特約店が保有するタンクローリーには自社のマークを表示することを要請していたもので、本件加害車もその例に従い車体全面に一審被告ゼネラルのマークを表示していた。

2、山田石油はその後昭和四五年五月ごろ営業不振のため事実上倒産し、その営業は一審被告山田の実弟具松雄が代表者となって同年六月一六日設立された延時石油株式会社(その後、商号を延時株式会社と変更)がこれを引き継いだ。

しかし、一審被告山田はその後も前記ゼネラルの石油運搬の仕事だけは続けたいと考え、むしろ、これを経常的な事業とすることとし、そのころ、一審被告ゼネラルの大阪支店(配送主任山田準一郎)に対し特約店をやめる代りに運搬業務に専念させてほしい旨申入れたところ、同支店から「運送事業用自動車(いわゆる青ナンバーのタンクローリー)を保有しないと正式の専属運搬契約は締結できない。」旨の答えをえた。

3、そこで、一審被告山田は義兄(妻の兄)の紹介により一審被告内田運送代表者に対し運送事業用自動車のいわゆる名義貸しを依頼した。

一審被告内田運送は道路運送法に基き一般区域貨物自動車運送事業の免許を受けて車両二五台を保有し、和歌山県下を発着地とするみかん、鋼材、鋼滓等の運搬を営む運送会社であったが、前記一審被告の山田の義兄が代表者である金森運輸が自社の得意先であった関係もあり、やむなく被告山田の申入れを承諾し、よって、前記三台のタンクローリーを自社の営業用車両として保有する旨の法定の名義替え手続をした。しかし、そのさい、一審被告山田は特段一審被告内田運送に対し名義使用料等の対価を支払う旨の約束をせず、被告内田運送もそのような要求をせず、ただ、名義書替え費用等として一〇万円ぐらいを受取っただけであった。

しかして、一審被告内田運送代表者は前記昭和四五年五月ごろ一審被告山田の懇請により同人と同道して一審被告ゼネラル大阪支店(配送主任山田準一郎)を訪ね、このたび石油運送部門を開設し、一審被告山田をその担当責任者としてその事業をまかせる旨および山田石油保有の前記タンクローリー三台を一審被告内田運送の運送事業用自動車として確保する旨を述べて一審被告ゼネラルの石油の専属運送をさせてほしい旨あらためて懇請した。

そこで、一審被告ゼネラルは内規により一審被告内田運送の会社経歴書を提出せしめたほか、興信所による同社の事業内容調査の結果等を綜合した結果、一審被告内田運送を信用ある会社と認め、同社と正式の専属運送契約を締結することとし、かねてからかかる場合のために用意してあった「傭車契約書」と題する契約用紙(その日付を昭和四五年六月一日と記入し、当事者欄にゼネラル大阪支店のゴム判を押捺してあるもの)と「傭車料金協定書」を一審被告山田に交付し、該当欄に一審被告内田運送の署名押印をするよう求めた(ゼネラル大阪支店では当時他に七社ほどの運送人と専属運送契約を締結していたが、その方式はすべて右と同様であった。)。右傭車契約書には「運送方法はゼネラル(甲)の選定する運送人(乙)のタンクトラックを使用するものとする。乙は運送を行うにあたり、甲の指示事項を遵守するものとする。」等の条項があり、その内容は専属的な運送契約を定めたものであり、一審被告ゼネラルがその営業上不可欠な石油類運送部門に必要な自動車を運転手付きで傭車する趣旨のものであった。

4、一審被告山田はその後右契約書の差し入れを延引していたが(同人はこれを整え差し入れようと思っていた矢先本件事故が発生したという。)、一審被告ゼネラルでは昭和四五年六月ごろ以降は、一審被告内田運送と前記契約書記載条項と同一の内容の傭車契約が締結されたものとして専属運送を依頼するようになり、被告山田を被告内田運送の石油運送責任者として扱い、同人を介し、本件加害車他二台のタンクローリーを専属的に使用し、近畿一円の得意先へ自社製品たる石油の運搬に当らせていた。しかし、一審被告山田は前記のとおり、実は、被告内田運送の名を借りただけであり、本件加害車等のタンクローリーは被告内田運送と無関係に保管し、被告ゼネラルの支払う運送料も名宛人は一審被告内田運送ではあるが、実際は一審被告山田個人の取引先ともいうべき和歌山信用金庫下津支店に振込送金され(下津は一審被告山田の住所地)、一審被告山田個人がこれを受領していた。

5、本件事故は、一審被告山田に雇われ本件加害車を運転していた一審被告姜が一審被告ゼネラルの指示に従いいつものとおり一審被告ゼネラルの堺営業所に出頭し、灯油一万リットルを積み、奈良方面へ運送中に発生したものである。

一審被告姜は当初山田石油に雇用されていたものであるが、山田石油が倒産し事業をやめてからは、引続き一審被告山田の前記のような仕事に使われるようになり、給与は同被告から支給されていた。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上の事実関係によれば、

イ、(一審被告山田の責任)

一審被告山田は本件交通事故の不法行為者一審被告姜を自己の石油運送業のために使用していたものであり、かつ、一審被告姜は石油運送中に事故を起こしたものであるから、一審被告山田は民法七一五条により本件事故につき使用者責任を負うものである。一審被告山田は被告姜の使用者は一審被告山田個人ではなく、同人が代表者である山田石油である旨主張し、被告姜が当初山田石油に雇用されていたものであることは所論のとおりであるが、右山田石油はその後昭和四五年五月ごろ倒産し、事実上その営業を廃し、その後の石油運送は被告山田個人が被告内田運送の名を借りて行っていたものと解すべきであるから、その後の本件加害車の運転手被告姜の使用者は一審被告山田個人であると認めなければならない。したがって、同被告の前記主張は失当である。

ロ、(一審被告ゼネラルの責任)

次に一審被告ゼネラル自賠法三条所定の責任の存否についてみるに、前記事実関係によれば、本件加害車は、被告ゼネラルと名目被告内田運送、実質被告山田個人との間で締結された傭車契約に基き(もっとも、本件事故当時未だ契約書は手交されていなかったけれども、契約書は処分証書ではないから、これなくしても契約成立を認定することはもとより可能である。)、被告ゼネラルの石油運送に専属従事していたもので、石油運送に当っては被告ゼネラルの指示に従うべき旨定められており、現に本件事故も被告ゼネラルの指示により同被告のため同被告堺営業所から奈良方面へ灯油を運送中に発生したものであって、当時加害車の車体には被告ゼネラルのマークが記され同被告保有のタンクローリーであるような外観を呈していたのであり、以上のような点を綜合すると、右傭車契約は、その名の示すとおり、通常対等当事者間になされる運送契約と異なるものであって、被告ゼネラルは加害車の運行について事実上の支配力を有し、かつ、客観的にみて運行につきその利益をも具有していたと認めるべきである。

そうすると、一審被告ゼネラルは本件加害車の運行供用者として本件事故につき自賠法三条所定の責任を負わなければならない。一審被告ゼネラルの前記説示の見解に反する所論は採用することができない。

ハ、(一審被告内田運送の責任)

しかし、次に一審被告内田運送の自賠法上の責任についてみるに、同被告は、一審被告山田に対しその保有するタンクローリー三台(本件加害車を含む)を一審被告内田運送の営業車として使用することを認め(青ナンバーとする便宜を与え)、被告内田運送の名において被告山田が被告ゼネラルと専属傭車契約をすることを許諾したものであるからその限りにおいて相応の問責を受けなければならない場合の存することは否みえないところであるが、いまこれを自賠法三条に則してみるときは、単に右のような名義貸しの外形的事実だけで、同法条所定の責任を問うことはできないのであって、はたして名義貸人が実質上名義貸し等の所為により、事故車の運行を支配し、運行利益を得ていたか否かによって決すべきであるところ、一審被告内田運送としては前記名義貸与に関し特段継続的に名義料等の対価をえていたわけではなく、得意先の紹介があった関係上やむなく求めに応じたに過ぎず、また、それゆえ、本件加害車を現実に保管していたものでもなく、加害車は同被告と無関係に専ら一審被告山田が自己の計算において被告ゼネラルに提供し、同被告がこれを専用していたものである。

そうすると、一審被告内田運送は本件加害車に対し何ら事実上の支配を及ぼす立場にはなく、また、特段その運行につき利益を享受していたものではないから、結局、その運行供用者ということはできず、それゆえ、本件事故につき自賠法所定の責任を負うものではないといわねばならない。

以上のとおりであるから、一審原告らの一審被告内田運送に対する請求は爾余の判断をなすまでもなく失当であるが、その余の一審被告らは各自上来説示の理由により本件事故につき責任を負うものである。

三、そこで、すすんで一審原告らが本件事故によって蒙った損害について検討する。

当裁判所は一審原告らが蒙った損害で一審被告内田運送を除くその余の一審被告ら各自に請求することのできる損害金額は、一審原告英治が金六二〇、〇五〇円、同ミヨコが金一、〇六一、一五〇円であると認めるものであって、その理由とするところは原判決理由説示(原判決二〇枚目裏八行目から同二八枚目表一〇行目まで。ただし、原判決末尾添付の計算書を含む。)また、原判決二一枚目裏五行目の「輝裂」を「亀裂」と、同二三枚目表一二行目の「仕せる」を「委ねる」と、同二七枚目裏一〇行目から一一行目にかけての「内田運送」を「ゼネラル」と各訂正する。)と同一であるからこれをここに引用する。

四、よって、原判決中、右と同旨の一審被告具本文、同姜点圭に対する部分は相当で、一審原告らの右被告らに対する控訴および右被告らの一審原告らに対する控訴は理由がないからこれを棄却し、また一審原告らの一審被告内田運送株式会社に対する控訴も理由がないからこれを棄却し、原判決中、一審被告内田運送株式会社、同ゼネラル石油株式会社に対する部分はそれぞれ一審被告内田運送株式会社、一審原告らの控訴により取消、変更を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 石井玄 畑郁夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例